「何、してるの皆?」

 扉を開けるなり飛び込んできた光景にユウリは呆然となった。
 聞こえた声から予測していたオニールに、隣室にあたるシモンはともかくとしてオスカーにセイヤーズまでいるのはどういうことか。
 言い争っていたのはどうやらシモン・オニール・オスカーの三人でセイヤーズはオスカーの袖を引いて止めようとしていたようだったが、ユウリが声をかけるなりピタリと口を閉ざし、全員の目がユウリに集中する。

 あまりに強く見つめられユウリは身じろぎしてしまう。内心後ずさりたい気分でいっぱいだ。

 少々笑顔が引きつりながらも、再度同じ問いをしようとしたユウリにオニールが詰め寄って来た。
「ユウリッ!ねぇ!今、誰が一番最初に目に入った?誰に一番最初に会ったと思うっ」
「は?…えっと、シモン?」
 訳が分からないユウリは困った時のシモン頼みとばかりに、シモンに救いの視線を送る。
「おはよう、ユウリ。…とりあえず、オニールの問いに答えてあげて。でないと彼、どうやっても落ち着いてくれそうにないから。それから説明してあげるよ」
 苦笑しながら告げてくるシモンにさらにユウリは疑問が募る。さらにはオスカーまで、ユウリの答えを待っているようで、誰が一番なんですか、と問いかけてくる。
 ユウリはゆるく首をかしげる。

 何を皆はそんなに気にしているのだろう。
 誰が一番かと言われても一斉に皆が目に入ってきたのだから、誰が一番もない。だが、そんな答えでは許されそうにない。
 なぜ、皆、一番最初にこだわるんだろう。

 シモンを筆頭にヴィクトリア寮の仲間達はユウリに過保護だった為、誰一人としてユウリに学園内で囁かれているヴァレンタインの噂について教えなかったのだ。その為、受験勉強に専念し始めたユウリは知らなかったのである。

 裏の話も、表の話も。

 だから、気がつかなかった。
 オニール達が、一番を気にしている訳も。アシュレイが、いる訳も。

 とにかくわからないなりにも、オニールが熱く、真剣に答えを待っているのだから、答えを返さなくてはいけない。
「…えっとね」
 一生懸命、扉を開けた瞬間の事を思い出しながらユウリは告げようと口を開いた所に、ふわりと暖かいものが肩にかぶさった。


 驚いたユウリが後ろを振り向こうとした瞬間、首に腕が回される。同時に、頭の上に重みがかかった。アシュレイがユウリの頭に自分の顎をのせたのだ。
「…アシュレイ」
「馬鹿か、お前は。この寒いのにそんな夜着一枚で廊下にでたら風邪をひくだろう。それとも何か、馬鹿は風邪をひかない、という母国の諺を自ら実践してみせてるのか」
「ち、違いますよっ!」
 ユウリに甘い顔をして見せながら、アシュレイが周囲の様子を伺った。予想よりやや多かったようだ。

 …これはやはり、釘をささないとな。

 アシュレイはまず、目の前で睨んでくる奴等に向かい嫣然と微笑んだ。
 その笑いをみて、最初はアシュレイの登場に驚いたものの、理解が進むにつれ怒りがわいてきたオスカーが無謀にも立ち向かってくる。
「なんで、アンタがこんなところにいるんですかっ!」
「ユウリがいるからに決まっているだろう?」
 見せ付けるようにアシュレイはユウリを強く抱きしめた。その様子にシモンは眉を顰め、オニールまで憤然とする。
 オニールがアシュレイに文句をつけようとするのを一歩踏み出す事で制し、シモンが告げる。

「ユウリを放してやってくれませんか、アシュレイ。ユウリが痛がってますよ」
「やだね」

 解放はしないが、抱きしめる力は弱めてアシュレイはシモンに視線をむける。
「…何をしに来たんですか、と問うのは愚かそうですね。僕とした事が、うっかり、してましたよ」
 貴方の存在を忘れていたと、苦々しげに言うシモンにアシュレイを除く全員が不思議そうに視線を向ける。
「どういう事ですか、ベルジュ」
 問い質そうとするオスカーにアシュレイが声をかける。
「わからないのか、お前」
「アンタには聞いてません」
「ベルジュ?」
 当のアシュレイ以外分かっていない事態にシモンはため息をこぼすしかない。
「だから。卒業したからといってこの人が、この学園に蔓延った馬鹿げた話に気づかない訳がないって事だよ。知ったからには、この人の性格上来ないわけがなかったんだ」

 親友になるというだけだったら、鼻で笑って終わりそうだが、裏では恋人になるという愚劣極まりない話が飛び交っていたのだから。お遊びとはいえ、ユウリの恋人争奪戦と目されている以上、この男が乗り出してこないわけがなかったのだ。
 シモンはいまだ、ユウリを腕の中に囲っている不遜な男をきつく睨みつけたが、後の祭りだ。


 シモンが気づいた事実はもう覆らない。


「ベルジュ、それって…」
「…っ!アンタっ!まさかっ」
 オニールはまだ意味を掴みかねていたが、オスカーは気づいた。気づいてしまった。

 まんまと出し抜かれてしまった事に。

 悔しげに睨み付けてくる男たちにアシュレイはわざと楽しそうに笑いかけてやる。勝者の余裕とゆうやつだ。
「残念だったな。…ユウリが目覚めたと同時に会ったのは俺だ。ちなみに、俺が一番最初に会ったのもユウリだ…まさにお互いが運命の恋人ってやつだね」
 そうだろう、と腕に抱えたユウリを覗き込むと不思議そうに疑問符を飛ばしながら、恋人という単語に文句をつけてくる。アシュレイは訝しく思い再度問いかけようとしたが、まさに怒り心頭といった具合にオスカーが掴みかからんばかりの勢いで怒鳴りつけてきて、ユウリから意識がそらされてしまった。
「卑怯だろ!眠ってる所まで押しかけるなんて、そんなのルール違反だっ!無効に決まってる!」
「ルール違反?これだから馬鹿なガキは困る。誰がどんなルールを決めたって言うんだ。悪いが俺は偶然に頼るほど間抜けじゃないんでね、確実な方法を取っただけさ」
「ふざけんな!認めないからな!大体、こんなの単なる言い伝えだ!迷信だ!アンタとフォーダムが恋人同士になんてなる訳ないだろっ!」
「そうか?なら、なんでお前はココにいる。なるって少しでも信じたから、お前らはそこに雁首揃えているんだろ?負け犬の遠吠えは聞き苦しいね。…しかし、なんだな。ココは思ったより馬鹿が多かったんだな。騒ぎになっているとは聞いていたが、ここまでとはな」





"    08/06/14 拍手する



一体どれだけ更新遅いんだという…。
すいません、途中凄い詰まっちゃいまして…(現在進行中。
あきらめてキリの良さげな処で…中編です。・・・続き、つーづーきどうしよう(血涙