「起きろ、ユウリ。お前はいつまで寝てるつもりつもりだ」 「う、ん。あと、少し」 せっかく、お貴族さまがフランスに戻っていてうるさくいうヤツがいないことだし、屋敷に止まらせるべく、寮に戻る気をなくす時間まで寝かせておこうとほっておけば、延々眠り続けて起きやしない。 「相変わらず、寝汚いというか」 自分が狼に狙われてる羊だってことを、いつになったら気づくんだろうな。危機管理能力が低すぎる。 アシュレイはユウリの頬をつついて、その柔らかな感触を楽しんだ。 「…………んん………」 「ユウリ、起きろ。起きないと、襲うぞ」 アシュレイがユウリの耳に囁くように告げると、「冷たっ」と言いながら、ユウリが覚醒した。 重そうに瞼をこじあげながら、アシュレイの名を呼ぶユウリの髪をひっぱり、低く笑う。 「寮には外泊する旨、俺が連絡してやった。お前はさっさとシャワーでも浴びて来い」 「…えっ! 嘘、なんで? って、外もう真っ暗だ。い、今何時ですか」 「20時だな。夕食の時間に一度、起こしに来たんだが、もう少し寝かせてくれとか言って起きなかったんだよ、お前は。だから、仕方なく俺がお前に代わって連絡してやったってわけさ」 今の今まで起こしに来なかったのだが、アシュレイは平然と嘘をつく。 「う、それは、ご迷惑をおかけしました。そしたら、ちゃんと起きますから、どいて下さい。このままじゃ、起きたくても起き上がれません」 アシュレイはユウリに覆いかぶさるような体勢で会話を続けていたのだ。 「へーへー」 アシュレイが身を引くのと同時に、ユウリは身を起こすと同時に声を上げる。 「アシュレイ! さっきからなんか冷たいと思ったら、髪の毛から水が垂れまくってるじゃないですか! ドライヤーかけろとまではいいませんから、ちゃんと拭いたらどうですか」 アシュレイは風呂上りのバスローブ姿で上にタオルを羽織っているものの、おざなりにしか拭かなかったため、髪の毛はびしょびしょのままだった。それもこれもある目的のため。 「別にいいさ、そのうち、乾くだろ」 「よくありませんよ。あったかくなってきたとはいえ、風邪引きますよ。もう、仕方ないなぁ、僕が拭いてあげますから、ここに座って下さい」 ユウリがさっきまで眠っていたソファーの上を軽く叩いてみせる。 「意外と口うるさいよな、お前は」 「そういう、アシュレイは意外にものぐさですよね」 呆れたように言うユウリに、そんなわけあるかと内心せせら笑いながらアシュレイは指示されたままにソファーに腰を下ろすと、ユウリは前に立って、アシュレイの肩にかかっていたタオルで優しくワシャワシャとびしょぬれの髪から水気を拭っていく。 「そういえば、髪の毛、結構伸びてきましたね。…せっかくだから、今、切っちゃいましょうか。また、ナイフでバッサリとか止めて下さいね。あ、やっぱり、一回やっちゃってますね。前回僕が切ってからにしては伸びてないですもんね。…いい加減、自分で適当に切るのは止めましょうよ。せっかく綺麗な髪してるのに」 ユウリはアシュレイの頭を抱え込むようにして後ろの毛先をわざわざチェックしている。 まるで抱きつかれているかのようでさらに気分が上昇したアシュレイが「だから、お前に切らせてやってるんだろうが」と、いかにそれが特別であるかわからせてやろうとしたのに。 「だから、僕以外ででも、ですよ」 わかってない。こいつは俺のことをわかってなさすぎる。 アシュレイはユウリの鈍さに冷たい声を出す。 「冗談じゃないね。前にも言ったが他人に切らせるつもりない」 「僕だって、他人ですよ」 「違うな、お前は俺のモノだから、他人じゃないんだよ」 「ハイハイ。好きに言ってて下さい。それにしても、初めてアレを見た時は仰天しましたよ」 小さく溜息をついたユウリに、俺の方が溜息つきたいねと声に出さずに嘆く。 きっと昨年の冬、まだアシュレイが在学した当時の頃を思い出してでもいるんだろうと、アシュレイも小さく溜息をこぼした。 |