ユウリが帰ってこない。 アシュレイは青灰色の瞳に苛烈な色を浮かべながら唇を噛みしめた。 配下の者から、ユウリを見失ったと報告を受けてから、一ヵ月、二ヶ月と経ち、すでに半年が過ぎた。 なのに、未だユウリは姿を表さない。 姿を表さないだけで、…死んだわけじゃない。 そうだ、ユウリが死ぬわけがない。 ただ、囚われているだけだ、…月に。 「どうせ、ポケポケしたヤツの事だ、うっかり自分の名前でも忘れて帰って来れないんだろう」 苛々した気持ちのまま髪を掻きあげて、呟いた言葉にアシュレイは自分で自分の事を呪いたくなった。 だとすれば、ユウリ自らの帰還は絶望的だからだ。 「どこまでアイツは俺に手間をかけさせればすむ気だ」 投資するだけして、不良債権を抱え込むなど、己の沽券に関わる。 きっちり負債は取り立ててやらなくては。 「俺はあの、お貴族サマや不遜な霊能者とは違う」 この世の全ての絶望を見たとばかりに諦めた顔をしたお貴族サマに、もう仕方がないとばかりに達観したかのような似非霊能者は、ユウリの消失を死として受け入れようとしているが、そんな事は、このコリン・アシュレイが許さない。 例え、地の底だろうが、地獄の底だろうが、月の神だろうが、取り返してやる。 「ユウリは俺のものだ」 何度でもアシュレイは、心の内で宣言する。 『ユウリは俺のものだ』 何度でもアシュレイは、心の内で誓う。 『ユウリは絶対に取り返す』 絶対に、ユウリを取り戻す事が出来るとアシュレイは信じている。 だけど。 時折、心臓のきしむ音が聞こえる。 何かが酷く乾いて、苦しくなる。 そして、思いだすのだ。 ユウリの恐怖と驚愕で拒絶に充ち溢れた瞳を。 思わず、アシュレイは机の上にあった全てをなぎ払った。盛大な陶器の割れる音や何枚もの書類が宙に舞い落ちる。 あれを、最後には絶対にしない。 「アイツのムカツク能天気な笑顔が見たいなんて、俺も終わってるな」 アシュレイは椅子から徐に立ち上がると、床に散った書類を踏みつけにしながら、今日もまた、ユウリをこの手に取り戻すべく、手がかりを探しに部屋を去っていくのだった。 |