どんなものでもいい。 と、言質を取り付けた俺に兄貴は大それた期待をしていなかったのか、中身をみた瞬間、吃驚した顔をしたけれど、次の瞬間には物凄く嬉しそうな顔を見せてくれた。 してやったり。 なんて、狙ってやった訳じゃない。 だって、この俺がマジにヴァレンタイン用のチョコなんて買えるわけがないだろ? 実はこっそり幾つかのヴァレンタイン売場を覗きに行ってみたりしたけど、あんなとこ横切ることさえ俺に出来る訳がなかった。 それならと、コンビニでこっそり買おうかとも思ったが、店員に心の中でも馬鹿にされるんじゃないかと思うとそれすらも出来なかった。 だからといって、通常の菓子チョコなんざ兄貴にやるのは、やっぱり嫌だった。 だからせめて自分の手で。 幸い、うちには道具があるから。 息子に甘い母親は毎年何時だって手作りチョコを贈ってくれたから。 見よう見まねとはよく言ったもので。どうにか母の製造工程を思い出しながら俺は手作りチョコに挑戦した。 幸い夕飯当番も俺だったから。 出来上がりはかなり見目は悪かったけど。 味はどうにかマトモにできて。 まぁ、それはホントに溶かして固めただけだから当たり前なのだろうけど。 骨を折れたけど、手間とプライド。 秤にかけたらやっぱり譲れなかったのだ。 だけど、こうやってみてみると、この判断は別の意味で間違ってなかったようだ。 「まさか手作りをもらえるとは思わなかったから凄く、嬉しいぞ、広海」 その嬉しさを全身で表わすかのように俺は力いっぱい抱きしめられてしまった。 まさか、ここまで喜ばれるとは思わなかった。 頬ずりまでされてしまって俺はもう照れてしまってどうしようもない。 「とにかく食ってみてくれよ」 「あぁv」 味もそっけもない紙袋から取り出したぶかっこなチョコレートを兄貴が頬張るのを俺はじっと見守ってしまった。 味見はしたから大丈夫なのはわかってんだけどさ。 それでも心配で。 どうしてもドキドキしてしまう。 「どうだよ」 俺はそんな気持ちをごまかすように、ついぶっきらぼうに訪ねてしまった。 「美味しいさ。 今までもらったチョコレートの中でも一番美味しいよ」 兄貴はもう一つチョコを口の中に放り込みながら、ニヤリと俺を見つめて、 「広海も一緒に味わったらいい」 口付けてきた。 キスと一緒に半分溶けかかっているチョコと兄貴の舌が俺の口に押し込まれ、翻弄される。 深い深い、官能を呼ぶようなキスをされて、俺は段々と体に力が入らなくなってしまって、俺は崩れ落ちてしまわないように兄貴の 背中に縋りついてしまった。 そしてそのままぼぉっとなってしまった俺の頭上で兄貴の笑う気配が感じられた。 俺を抱きとめたまま兄貴はベッドに腰をかけて、気がつくと俺は兄貴の隣に腰をかけた状態になってしまっていて、憤死しそうな程の恥ずかしさが襲ってくる。 幼い頃からベタベタに甘やかされてたから膝抱っこなんて確かに沢山経験はあるんだが、この年になってからやる事ではないわけで。 だけどつい先頃、陽一曰く『めでたく恋人同士』になってからというもの、昔のように、いや昔よりも甘く甘く、べたつかれている気がする。 今も、楽しそうに俺の髪をいじっては、髪の先にキスを贈っている。 俺はどうしても恥ずかしさが勝って、昔のように素直に甘える事が出来ないけど。 こうして構ってもられるのは凄く嬉しかった。 だって、好きなんだよ。 兄貴が。 世界中で一番、兄貴が大好きなんだ。 兄弟だから。 男だから。 そんな事どうだっていいって思えるくらい。 兄貴の首の後ろに手を回してそのまま俺からもキスを贈った。 この時間が一番好きだ。 兄貴とキスをしている時。 俺と、兄貴だけ二人だけの世界を感じ取れるから。 軽く触れるだけのキスから。お互いを奪い合うような深い口付けまで心ゆくまでキスをしていると下の階からチャイムの音が聞こえた。 一番下のお帰りだ。 どんな時でも広海に扉を開けさせる為、チャイムを鳴らす弟にこんな時は助かる。 気づかずコンナトコに踏み込まれてもなんだしな。 くすり、と二人目を合わせて笑いあう。 共犯者の笑み。 「じゃ、大地家に入れに行くわ」 「お返しは3倍返しだったかな。 ホワイトデーは期待して待ってろよ」 「パッカ」 名残惜しいけど俺は陽一の腕の中から抜け出した。 |