昼食を終えた後、生徒自治会執行部室に行くというシモンと別れたユウリは、自分の部屋に戻る途中、ちょうど寮の最上階に辿り着いた処で、ユウリとは反対に階段を降りようとしていたアシュレイと、ばったりと遭遇する。
 部屋が隣なのにも関わらず、アシュレイと会うのは数日ぶりで、ユウリは目の前の背の高い男を、じっと見つめる。
「…アシュレイ」
「…ちょうどいい時に会った、ユウリ」
 何がちょうどいいのか、何か企んでいるような人の悪い笑みを浮かべたアシュレイに、ユウリはそのまま脇を通り抜けて、逃げ出したい心境になる。
「珍しい物を貰ったんだ。お前にやるから、来い」
 強引に腕を掴まれて、ユウリは引きずられるように、アシュレイの後を着いていく。
「あのっ、アシュレイは、今から出かけるところだったんじゃないんですか?そんなに急がなくても、帰って来てからでも…」
 アシュレイは、平日の昼間なのにも関わらず、上下真っ黒の私服姿だったので、また、外出する所だったのではないのだろうか。
 ユウリが慌てて言い募ると、横目で強く睨まれてしまった。
「俺の誘いを、断るつもりか。生意気な」
「そうじゃなくて、用事があるなら悪いなって、気をつかっただけです」
 思わずユウリが首を竦めると、アシュレイは鼻をならして、すげない答えを返す。
「悪かったら、最初から声なんてかけない」
 アシュレイは、自室に辿り着くと扉を開けて、ユウリに先に部屋に入るよう促した。
 ユウリはとりあえず、正面にあるソファーにちょこんと腰かける。
 アシュレイは、寝室から一本のガラス壜を手に取ってくると、わざとユウリの隣に腰を下ろす。
「ほれ」
「珍しいものって、コレですか?」
 手渡されたのは、紋様が刻まれた綺麗なガラス壜で、受けとってみると、中に液体が入っているのがわかる。
 珍しいのは、この綺麗な壜の事なのか、中に入ってる液体の事なのか。
「そうだ、飲め。飲んで、感想を聞かせろ」
 アシュレイの言葉に正解を知るが、飲めと言われて素直に飲むには、相手が悪い。
「えーと?」
 ユウリが小首を傾げて、アシュレイを不審げに見上げると、からかうような視線が返される。
「貰ったのはいいが、俺の好みに合わないんでね、お前なら、何でも食べるし飲むから、ちょうどいいかと思ってな」
 アシュレイが、両手を肩の高さまで持ち上げて、笑いながら言うのを聞いて、ユウリはがっくりする。
「人のことを、なんだと思ってるんですか。僕、そんなに意地汚くないですよ」
「よく言うよ。オラ、いーから、さっさと飲め」
「嫌ですよ、何でそんな今すぐ、飲まなくちゃいけないんですか」
 強制されて飲みたくはないと、アシュレイに説明を求めると、仕方なさそうに頭を掻いて告げてくる。
「貴重な販売前の試供品だって言われて渡されたんだ、感想を言わなきゃならないんだよ」
「なるほど。販売前の試供品だから珍しいんですね。わかりました。でも感想なんて言われても、大したことは言えませんからね」
 納得したユウリは、同じくガラスで作られた洒落た蓋を取って、飲んであげる事にする。
「うわ、すっごい甘い香り」
「甘ったる過ぎて、俺はとても飲む気にならなかった」
 嫌そうに言うアシュレイに笑いながら、ユウリは壜の中身を飲み始めた。



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